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『小説』 無題 6

店が終わり、女の子たちがフロアーへ集まって来た。

 

体験入店の女の子たちのお給料を支配人が渡している。

 

他の子たちは、送りの車を待っていた。

 

「結子さん、今日私たち後の便でいいから、先乗って」

 

雰囲気からして、どうやら、これから飲みに行くらしい。

 

「今日はちょっと用事があるから、このまま帰るね」

 

あえて結子は、アフターと言わなかった。

 

もし、アフターがあるなんて言ったら、どの客かと根掘り葉掘り聞いてくるに違いないからだ。

 

彼女たちは、絶対に負けたくないという競争心のかたまりなので、結子にアフターが入ったとなれば、何を言ってくるかわからない。

 

まったく面倒な人種なのだ。

 

結子は、何か聞かれる前に、そそくさと店を出た。

 

彼女たちとばったり鉢合わせしたら困るので、絶対に行きそうもないショットバーへ行く事にした。

 

そこは席数も少なくこじんまりとしていて、大勢で来るわけがないからだ。

 

バーに入ると、マスターが「いらっしゃいませ」と気取った声を出す。

 

「待ち合わせなんですけど」

 

「こちらへどうぞ」

 

奥の席を案内された。

 

ここなら、マスターに話を聞かれることもなく、話せると思った。

 

「何かお飲みになりますか?」

 

彼を待とうか迷ったが、仕事終わりのお酒ほどおいしいものはない。

 

誘惑に負けて、ゴッドファーザーを注文した。

 

ウィスキーとアマレットのカクテルだ。

 

いつもなら最初は、無難なカクテルにするところだが、今日は込み入った話になりそうだったので、きつけに一杯やることにした。

 

程なくして、彼が店にやってきた。

 

彼が席に着くと同時に、ゴッドファーザーが運ばれてきた。

 

「ずい分強いお酒を飲むんだね」

 

目を丸くして、結子を見る男性を見ることができなかった。

 

「ちょっと今日は、そんな気分で」

 

この気持ちはいったい何だ?と結子は思った。

 

酒豪だと思われたくない、と反射的に思ったのだった。

 

でも、泥酔している所を見られているのだから、どちらにしても同じなのだ。

 

「じゃあ、僕も同じものを」

 

「お酒、強いんですか?」

 

「特に強いわけじゃないけど、弱くもないと思うよ」

 

「そうですか」

 

「君と同じものを飲んで、どれくらい酔うのか、試してみたいんだ」

 

変わった人だと思った。

 

でもなぜか、嬉しかった。

 

二人はとりあえず乾杯をして飲み始めた。

 

「それで、もう少し確認したいことって何ですか?」

 

結子は、気になって、単刀直入に質問をした。

 

「その前に、僕の名前言ってなかったよね。あんな事になったから、言うのを忘れていたよ」

 

「そうですね。お名前は?」

 

「浜木次郎。35歳。普通の商社の会社員」

 

「意外です。何か、おじさんみたいな名前ですね」

 

「君は、本当に直球で来るよね。僕じゃなかったら、けっこう傷つくと思うけど」

 

「ごめんなさい。悪気はないんですけど、つい思ったことが口から出ちゃうんです」

 

「うん、知ってる。ところで、先走るのは口だけなの?初めて会った人と関係を持ったことってある?」

 

結子は、戸惑った。やっぱりそっちが目的だったのか、と幻滅した。

 

少し、気に入り始めていたのに。

 

「やっぱりそれが目的なんですね」

 

「誤解しないで。これが確認したかったことだよ」

 

「どうして、そんなこと聞くんですか?あなたには関係ないと思いますけど」

 

結子は昔、ホームレスだった。

 

ホームレスと言っても、ネットカフェを転々としていた。

 

食べるお金がなくなると、体を売っていたのだ。

 

でもこれは、誰にも言っていないし、知られたくない。

 

もちろん、律子ママは知っている。もしかして、律子ママが?

 

「答えてください。誰がそんなこと言ったんですか?」

 

「律子ママだと思ってるんだろ。違うよ。君が言ったんだ」

 

「私が?」

 

「そうだよ、あの時、トイレから抱きかかえて出た時に、君は言ったんだ。『私をいくらで買ってくれる?』ってね」

 

結子は愕然とした。

 

まさか酔いつぶれて、そんな事を口走ってしまうとは。

 

封印したはずの過去が、開いてしまった瞬間だった。

 

「あなたに、いや、浜木さんには関係のない事ですけど、教えてあげます。そうです。初めて会った人と寝たことありますよ。これで満足ですか?何が目的ですか?」

 

「落ち着いてよ。僕は別に、君を傷つけるために言っているわけじゃないんだ」

 

「じゃあ、何ですか?体売ってた過去がある女に何がしたいんですか?」

 

浜木はうつむいて、考えている様子だった。

 

「結子ちゃんのこれからの人生を、僕に売ってくれないかな」

 

結子は、浜木が何を言ったのか、理解するまでに時間がかかった。