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『小説』 無題 10

結子と律子ママは、向かい合って朝食を食べていた。

 

誰もいない店内。

 

お姉さま達は、まだ2階で眠っている。

 

その時、結子の携帯が鳴った。

 

浜木からのメールだった。

 

「誰から?」

 

律子ママに聞かれて、結子は今までのいきさつを話した。

 

「そう、あの時の」

 

「ママは、浜木のこと覚えているの?」

 

「ええ、覚えているわよ。いい男だったもの」

 

「どんな人だった?」

 

「一見、普通の好青年に見えるけど、何か胡散臭い雰囲気があったわねえ。悪い人には見えなかったけど、クセがあるっていうのか、心に闇を抱えているというか」

 

それは結子も感じていた。

 

その雰囲気は、どことなく結子と同じにおいを感じたのだ。

 

「だから私、今日から浜木のところに行くから、しばらく来られないかもしれない」

 

「あんた、本当に大丈夫なの?」

 

「わからない。でもこのままキャバクラで働いていても、未来はないし、お見合い結婚したと思えば、悪くないかなって」

 

「そりゃ、あんたももう若くないんだから、そろそろ結婚しないと貰い手がいなくなるものね」

 

「結婚はあきらめてたから、それは考えてなかったけど、もうキャバクラで働くのも、限界の年齢だからね。それに、働かないで10万円もらえるなんて、良い生活でしょ?」

 

「そりゃそうだけど、うまい話には、何か裏があるものよ」

 

「ママは意外と古い考えなのね。今は、何でもありの世の中よ。うまい話くらい、そこらじゅうに転がっているって。犯罪さえ犯さなければ、何をしたっていいのよ」

 

「悪いけど、私には理解できないわ」

 

これ以上話すと、律子ママのご機嫌を損ねそうだったので、結子は話を切り替えた。

 

「でも昨日、初めて酔っていない時にこの店に来たけど、お姉さま達も大変だよね。私てっきり、ゲイのお客ばかりだと思ってたけど、ただのおっさん相手じゃない。しかも下品なお客ばっかり。私、尊敬しちゃうな」

 

律子ママが、また険しい表情になった。

 

結子はまた、自分がまずい事を言ってしまったのだと、直感した。

 

「結子ちゃん、人間にはね、羽目を外す場所が必要なの。いつも張りつめていたら、いつかプチっと糸は切れるものよ。この店で糸を緩めることができるなら、そんな嬉しいことはないわ。みんなそう思って仕事をしているの」

 

確かに、男という生き物は、女の前では見栄を張る。

 

でも、お姉さま達は、どんな人も大きな心で受け入れてくれるのだ。

 

もともと性別が同じもの同士、理解しあえるのかもしれない。

 

「みんな、色々な思いを抱えてここに来るんだね。それをお姉さま達が受け止めてるんだ」

 

「そんな所かしらね。でも、この店に来る人は、みんないい人ばかりよ。時々、悪ふざけしすぎる人もいるけど、そういう人は、たいてい本当は気が弱い人なの。それ位、可愛いものよ」

 

「さすが律子ママは、肝がすわってるね」

 

「何言ってるのよ。こんなか弱い乙女をつかまえて」

 

「それはいくら何でも無理があるでしょ」

 

「あら、失礼しちゃうわ」

 

こんな会話も、しばらくできないのかと思うと、何だか少し、寂しい気がしてきた。